03/24 言霊（孤塗他真）

久々に小話を一つ！

言霊（孤塗他真）
―――孤独に塗られた他人の真意


　いつか　この雨は止むだろう
　得がたい願いと　引き換えに
　そのときが　訪れるまで
　私は　道を歩み続ける

　祈りは　いつか痛みに変わり
　時間はいずれ　なくなるだろう
　そのとき　選んだ思いでは
　何も　かもを消し去った

　手に　入れたのは憎しみの刃
　失ったのは　かけがえの無い絆



「雨丸？　なに聞いてんだ？」
　パソコンの前に座り、ヘッドホンで何かを聞いてる雨丸に王太は話しかける。
　食い入るようにして、パソコンを見つめていた雨丸が、ちょっとバツが悪そうに笑ってヘッドホンを取った。
「すみません。歌、を聴いてたんですけど…、いけなかったですか？」
　その表情はすでにいつもの雨丸のもので。
　王太はちょっとした見間違いかと、話を続けた。
「いや、特にすることも無かったんだし、構やしねぇけど。何聴いてたんだ？」
「なんだか気になった歌です。班長も聞いてみますか？」
　ヘッドホンを外し、スピーカーを差し込み始める雨丸。
　せっかくだし、と王太は雨丸の隣に座る。



「寂しい感じの歌だと思いませんか？　なんだかとても痛々しい」
　先ほどの大人びた痛々しい顔はこれを聞いたから、か、と納得できるほど。
　自分自身の感情を揺さぶるような声。
　悲しみが、痛みが、憎しみが、まるで今すぐ二でもあふれてきそうな。
　そんな、音。
　そう、歌なんてものに興味のない王太にも、確かに、悲しい歌だと感じさせる。
　いや、無理やり感じさせる、この歌い手の力量……。
「ああ、そうだな。歌い手の想いが入ってるからじゃないか？」
　雨丸の目が、微かに丸まる。
「そう、ですね」
　きれいに笑ったその笑顔。
　作り物のような、それ。
　これ以上見たくなくて、王太は雨丸の手を取りいすから立たせる。
「見回り、行くぞ！」
「あ、…はいっ！　班長」
　あわててパソコンの電源を落とすためにマウスを動かそうとした際。
　画面がいきなりブラックアウトしたかと思うと、ひらひら、と真紅の桜の花びらが舞う。
　あかい、赤い、紅い、それ。
　人の血の色を思わせる、紅い花びらが舞う。
「雨丸！　早くしろっ！」
「あ、すみません。班長！」
　マウスを動かすとすぐにいつものデスクトップに戻る。
　とりあえず、スタートから終了を行うと、急いで雨丸は王太を追った。



　だから、雨丸は気づかなかった。
　その黒く塗りつぶされたその画面に現れたその文字に。

　―――君は、今どこに居る？